デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2006.10.16アンビエント・ファインダビリティ

コンピュータ関係の書籍を多数出版しているオライリー・メディア社は、インターネットバブル以降のウェブの変化を捉えたWeb2.0という言葉を世に広めたことでも知られる。Web2.0は現在進行形の変化であり、まだ何が核心かもはっきりせず、漠然とブログやソーシャル・ネットワークのような新しいウェブの使い方だと納得されていることも多いと思う。この点、オライリー社CEOのティム・オライリー氏は「Web2.0とは何か」という論文で、Web2.0的なサービスの特徴を分析して共通する要素を明らかにしている。下のリストはその特徴を要約したものだが、こう見ると確かに以前と一線を画す新しい世代のサービスが出現していることが確信される。

d_25_Web2.0興 味深いことに上記のオライリー氏の論文では、Web2.0的なサービスの要素を説明する上で、建築家のクリストファー・アレグザンダーのパタン・ランゲージが引用されている。アレグザンダーのパタン・ランゲージは、建築や都市の中に年月とともに淘汰され生き残った有用な形態を見出し、それらの合成として建築を捉える方法を示したものだ。実はパタン・ランゲージは建築よりもソフトウエア・デザインに波及してより有名になったのだが、ここに来てWeb2.0の議論でもパタン・ランゲージから類推されるボトムアップなサービスの作られ方が参考にされている。

Web2.0では、多数の人間の作用によって維持される集合知(collective intelligence)がもっとも高い付加価値であるという点が、それ以前のサービスと決定的に違う。今や家電製品から学校選びにいたるまで、コミュニティ・サイトやブログで評価を見つけて参考にするのが普通になっている。ブログの一つ一つの記事は限られた経験の範囲内で多少偏りのある見方だが、それらの中には参考に値する情報もある。そしてオライリー・メディアから最近出された「アンビエント・ファインダビリティ」という本は、データの整理と検索の世界でも集合知が核心となっていることの裏づけを、歴史的な展開に沿って示している。もともとアンビエントは、周囲の環境の中に意識せずに存在するというニュアンスの言葉だ。筆者のモーゼル氏によれば、ファインダビリティとは対象物の発見のしやすさであり、そのためにシステムがユーザの経路探索や情報検索の能力をサポートする性質である。どの時代でもファインダビリティを向上させる努力はあったが、現代のWeb2.0はそこに集合知を結びつけることで、検索を必要とする人にとって無数の人間の知性をナビゲーターとして利用できる状況を作りだしている。

検索における集合知の活躍の例として、写真のFlickrや、最近ではビデオクリップのYouTubeなどを挙げることができる。これらのサービスは集積していくデータに対してユーザが自分でタグをつけていくことが特徴だ。結果としてユーザがつけたタグが写真やビデオを分類するための語彙、いわゆるフォークソノミー(folksonomy)が作られていく。ただしタグは個人の判断でつけるので、適切なタグかどうかの保障はない。しかも自然言語の言葉を使っていることから、2つの言葉の意味するところが重なったりするような、自然言語と同様のあいまいさは避けられない。もちろん人間には自然言語から意味を汲み取る知性があるので、あいまいさを当然のこととして受け入れて役立つ情報を見つけられるように適応できる。Web2.0やその一部であるフォークソノミーは、コミュニケーションの中から有用な情報を見つけるという、もともと人間が社会的な動物として持っている能力をうまく活かせる方向にウェブが発展したものといえるだろう。

アンビエント・ファインダビリティの本は多数の事例が紹介されており、それ自体が参照リストとして有用だともいえるが、おそらくこの本の一番の貢献は「アンビエント」という言葉を広めたことだと思う。社会の大きな動きから日常生活までのさまざまな事象について、周囲にある無数の目と知性を通した解釈が検索でき、やがて自分の判断にも取り込めるという検索の進化形を考える上で一つの役立つ言葉だといえるだろう。

参考文献

[1]Tim O'Reilly, What Is Web 2.0: Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software (2005)

[2] ピーター・モーゼル、アンビエント・ファインダビリティ、オライリー・ジャパン(2006)