デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2006.11.16YouTubeが支えるクリエイティブパワー

2006年に一番話題になったネットサービスはおそらく、ビデオ投稿サイトのYouTube(ユーチューブ)だろう。普段テレビを見なくても気になるニュースだけはYouTubeで見るとか、気になっていたCMを探し出したとか、動画はYouTubeでチェックすることが習慣になった方もいると思う。もちろんニュース番組でもCMでも著作物を勝手にアップロードすることは違法で、YouTubeでも見つけ次第削除している。しかし次々とアップされていくものをテレビ局の指摘で後追い削除しているのが現状だ。人によっては、やがてYouTubeもNapsterのように業界の圧力で閉鎖に追い込まれるという冷ややかな見方もある。しかし一方で、MTVやNBCのように積極的にプロモーションに利用する企業も現れており、すでにコンテンツ流通産業自体が新しい環境に適応しなければならないこともはっきりしている。


GoogleがYouTubeを買収するというニュースは、YouTubeの知名度をさらに上げることになった。買収により、当面はYouTubeがどのようなビジネスモデルを築くかが関心の的となる。すでにYouTubeは買収前からGoogleのadSense広告を取り入れていたが、今後はさらに検索と連動した広告の展開を図っていくことになるだろう。Googleはこれまでにも、例えばKeyhole社を買収してGoogleEarthを展開するなど、思い切った行動で新しい分野を開拓している。YouTubeはすでにビデオを媒介にしたソーシャルネットワーキングサービスとしても機能しており、この新しいもの好きなコミュニティーを活かしたアフィリエイト広告や、ビデオそのものをコンテンツ連動型広告の媒介にする展開もあり得るだろう。Nielsen//NetRatingsによれば、2006年6月のYouTubeサイト訪問者数は約2千万人で、その半年前の2006年1月に比べても300%増加し、一人当たりの平均ビュー時間も17分から27分に延びた。ユニークなのは12?17歳の割合が平均的なウェブサイトより1.5倍多いことで、これもビデオという新しいメディアの重要な特徴だろう。

YouTubeは技術的には、ユーザがつけたキーワードをメタデータとするビデオのポータルである。YouTubeからストリーミングされるのはFlashビデオ(FLV)で、平均的な2分程度のビデオクリップだと約5メガバイトになる。2006年7月時点のアナウンスによれば、1日あたり1億回ビデオが見られており、単純に24時間で平均すると毎秒約50ギガビット、ピーク時にはそれ以上のデータがストリーミングされていることになる。日本の最大手クラスのプロバイダが持っている米国との回線容量は約100ギガビットで、YouTubeの回線容量はそれと同じオーダーのものが必要ということになる。回線使用料だけでも月1億円を超えると推定される規模である。

YouTubeでもっとも人気のあるビデオは、例えばスターウォーズのパロディであるChad VaderのようにChannel101で観客から選ばれたものが多い。Channel101は、ヒート・ヴィジョン・アンド・ジャックというB級ホラー映画番組を撮ったDan HarmanとRob Schrabが、だれもが自作ビデオの上演に挑戦できるしくみを提供するために作った。Channel101に投稿されたビデオ作品は予選を経たうえで上演され、もし視聴者の投票で上位に残れば翌月にその続編を上演できる。ここではテレビとは反対に視聴者が見たいものを決めるので、作家は視聴者をうならせようと知恵を絞る。

YouTubeは、もともと自分の関心事を他人と共有するためにビデオを投稿するサイトである。他人が自分の投稿したビデオに興味を持ってくれて、それが大勢に伝わって有名になれば、投稿者としては満足なのである。良いものを出せば潜在的に大勢いる視聴者からフィードバックが返ってくることが、投稿を活性化させる駆動力になる。これからYouTubeが個人のアイディアや創作意欲を刺激する装置として働いて、ますます面白いコンテンツが集まって来ることを期待したい。YouTubeは広告の媒体として重要な手段になると思われるが、同時に個人の創造力を発揮する場としても重要であり続けられると思っている。

〈参考〉

[1]Nielsen//Netratings, YouTube U.S. Web Traffic Grows 75 Percent Week Over Week,
http://www.nielsen-netratings.com/pr/pr_060721_2.pdf
      d_26_Chad_Steve

図:Googleの買収がアナウンスされた日に挨拶するYouTube創始者のChad HurleyとSteve Chen