デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2007.05.10バング&オルフセンのデザイン技術

最近、デンマークの映像音響メーカーであるバング&オルフセン(B&O)を見て回り、 また同社とユーザリサーチの共同研究をしている大学研究者らと会う機会があった。B&Oの製品では、 床から鉛筆が立ち上がったようなほっそりと背の高いスピーカーや、 横一列に並べたCDの間をピックアップ部分が水平移動するオーディオプレーヤーなどが有名である。 その他の製品もデンマークらしい洗練されたデザインで目や耳、そして操作する手を楽しませてくれる。

B&Oのものづくりで興味深いのは、同社が製品を出すペースが非常にゆっくりしていることである。上記の鉛筆のようなスピーカー (Beolab8000)は1992年の発売だが、15年たった今でも主力製品である。 それ以降に発売したスピーカーはテレビ用やPC用を除けば7機種で、平均して2年に1機種ということになる。 オーディオプレーヤーも同様なペースであり、 手をかざすとCDをカバーするガラスがスライドするデザインで世間を驚かせたBeosystem2500の発表が1991年、 それ以降発売されたのは数機種のみである。最近ではプラズマTVもあるが、それも4機種と絞られている。 そして一つ一つの製品が長く使われることを前提にしているので、古く汚れた感じにならないよう素材の表面仕上げにも念を入れている。 20年前のオーディオプレーヤーを見せてもらったが、 ホコリを払った後のコンソールパネルはアルミニウム独特のしっとりしたつやを保っていた。

B&Oの製品で特徴的なことは、ユーザ・エクスペリエンスについての考え方が一貫していることである。 例えば80年代のオーディオプレーヤーが今のリモートコントローラで問題なく操作できることなどは、B&Oの製品全体の統合性を示している。 これは製品のユーザビリティを個別に改良していくこととは違うアプローチであり、インターフェースの理解しやすさ、 ユーザから見た透明性を追求して出てきた方法論である。試行錯誤で問題点を見つけて改良する方法だと、 人間が操作についてどう理解しているのか結局分からない。そうではなく、直感的に操作できるためには、機能を明確に形態で表現し、 操作にフィードバックを与えるべきだという理論に従ってデザインをするということである。 同社のインタラクションデザイングループではこのことを「試行錯誤のデザインから理論に基づいたデザインへ」と表現している。

B&Oのように独特の個性を持ったデザインをしようとすると、 多数のユーザの意見を取り入れるユーザ駆動型の開発は基本的に無理である。そのためB&Oでは、 微妙な音のニュアンスを記憶して言語化できる少数の評価者が長期的に開発に関わっているのと同じように、 操作の違いが人間に与える影響を見分けられる評価者が継続的にインタラクションデザインに関わっている。驚きや高揚感、 愛着などを作り込む製品開発では、音や映像と同列にインタラクションデザインの質を評価することは合理的なことなのである。

もう一つB&Oのインタラクションデザインの優れた点を指摘するならば、 音響技術によってスピーカーや人間の場所の自由度を広げたことが挙げられる。最上級のスピーカー(Beolab5)では、 部屋の中に設置して調整を始めると、本体の下から測定用マイクロホンが出てくる。 そしてスピーカー自身が低周波から高周波まで音を出して反射音を拾い、その位置から見た部屋の音響を測定して、 内蔵アンプの出力特性を自動的に調整する。またこのスピーカーは、 中高音を独特なカーブの壁に反射させてから前方180度の範囲に均一に放射する。そのため、 スピーカーも人間も部屋の中での位置が限定されない。 音の調整が自動化されるとオーディオマニアにとってはつまらないという意見もあるそうだが、やはり音楽を聴くという基本においては、 部屋の配置に拘束されない自由度は重要であろう。実際に試聴室にあるBeolab5でサラ・ブライトマンのCDを試聴させてもらったが、 離れて聴いていても、まるで歌手の口からこぼれ出た言葉がそのまま伝わってくるような実感のある音が印象的だった。

B&Oは1925年に創立以来、これまでに欧州市場の自由化や日本製品との競争、 高コストによる経営難や技術的な行き詰まりなど何度も危機に直面してきたが、 そのたびに独自のポジションを見つけて今日の地位を確立するに至っている。長期的な製品開発や、 特にその中でのインタラクションデザインの位置づけが非常に参考になる企業であった。

 

写真上:両脇にあるスピーカーが、部屋の音響特性にあわせて自動的に調整するBeolab5

写真中:指を触れると操作パネルが両側に分かれて、中からCDのカバーが開く

写真下:一つのリモートコントローラで全ての機器を操作できる

 

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