デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2007.08.10GoogleマップとGoogleアースの影響力

地図と衛星写真を使ったGoogleマップとGoogleアースは、 いまインターネットで提供されている画像サービスの中でも最も大規模で印象的なものだろう。 人工衛星の視点で上空からのリアルな地球を眺めることは、情報の視覚化に地球規模という新しいオーダーが加わったと感じさせるものがある。

すでに日常的に利用している方も多いがごく簡単に紹介すると、Googleマップはさまざな地理情報を乗せた検索可能な地図である。 例えば東京駅をGoogleで検索すると、自動的に場所名と判断されてトップにはGoogleマップへのリンクが返ってくる。 東京駅周辺の地図を開いておくと、今度はその周辺にあるコーヒーショップなどを探すことができる。このとき、 地図で特定の場所を見ていることが自然に検索の文脈に取り込まれて、東京駅周辺の店だけがリストアップされることがポイントである。 一方GoogleアースはPCにダウンロードして使うアプリケーションである。 Googleアースは視点移動のアニメーションをうまく使っていて、場所から場所への移動を連続的に追っていく。また有料会員になると、 自分が作った3Dの建物を地図上に置くこともできる。

Googleマップには最近、ストリートビューの機能が加わった。これはパノラマ写真で道路沿いの景観をシミュレーションするもので、 道に沿って移動したり、立ち止まって全方向を見回したりできる。 すでに撮影されている場所だけが対象なので今のところ米国のいくつかの都市に限定されているが、 一度でも行ったことのある場所を改めてストリートビューで見ると細かい点まで確認することができて新鮮である。

GoogleマップやGoogleアースは、キーホール (Keyhole)というベンチャー企業の技術をGoogleが買収してできた。キーホールは、 地図情報と人工衛星の写真を使って地球を視覚化する画期的なプロジェクトを行っていた。この背後には、元シリコン・ グラフィックス社(SGI)のマイケル・ジョーンズがいる。彼は10歳の時からアセンブリ言語を使っていたという天性のプログラマーで、 90年代にSGIで技術担当ディレクターとして活躍した後スピンアウトし、新しい空間情報の視覚化に取り組んだ。

マイケル・ジョーンズは最新号の米国電子電気学会(IEEE)の会誌で、Googleの空間情報システムの考え方について述べている。 彼は、従来はブラウザというツールがコンテンツを表示していたのに対して、GoogleマップやGoogleアースは立場が逆転して、 それ自身がブラウザの役割をしていると考えている。この場合、 GoogleマップやGoogleアースで表示される地理情報がコンテンツになっている。 場所や建物について地元の人が知っているようなことを知識として伝えるには、 その場所をインタラクティブに探索して自分の感覚で把握することが必要である。 その意味でGoogleマップは探索の足場となるブラウザなのである。

場所を手がかりとして情報を探すことはこれまでにもニーズがあったが、 地図という画像の世界と文字の世界とのインタフェースが限られていたために、 どうしてもカーナビのように情報源が固定的にならざるをえなかった。またPCで大規模な地理情報を表示するには、 グラフィクスの速度という技術的な課題もあった。実はGoogleマップやGoogleアースが真に優れている点は、 キーホールから引き継いだグラフィクス処理技術にある。普通のPCでもスムーズな操作が可能になった背後では、 詳細度が段階的に異なる複数の画像データを巧妙に組み合わせて注目されている箇所だけ詳細に描画するという作業がリアルタイムに行なわれている。 こういった見えないところの技術が、空間情報の共有という進歩を支えているのである。

Googleマップの実用化によって、空間情報の分野はこれから大きく推進されていくだろう。そして商業的な発展と等しく重要なのは、 Googleアースのようなツールが我々が世界を知るための新しい道具になってくる点だ。一例を挙げれば、Googleアース上では現在、 スーダンのダルフールでの紛争の情報が特別に提示されている。 これはアメリカのホロコースト博物館(USHMM)がGoogleアースに働きかけてできたものである。 Googleアースの中で場所がはっきり示されることにより、アフリカのどこかでの紛争だという認識しかなかったものが、 急に現実味を持った情報になる。破壊された村や難民キャンプなどを示すアイコンを見れば、 誰の目にもここで非常事態が起きていることが明らかになる。

IT企業が政治的な問題に足を踏み入れるのが正しいかどうかは議論があるだろうが、 Googleアースが地球で起きていることを一般の人に対して伝える上では圧倒的な力を持っているのは確かである。 Googleをはじめとする空間情報の扱いが、これから実世界に影響力を持つようになるということは確実にいえるだろう。


図:Googleマップのストリートビューと、Googleアースでのダルフール(スーダン)の紛争の情報
street_view 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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