デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2013.03.28「デザインあ」展に見る観察への興味

21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)で佐藤卓ディレクションの「デザインあ」展が開かれている。もともとNHK Eテレの番組「デザインあ」を発展させた展示なので子供の来場者も多い。受付を通るとさっそく「あ」の文字の中に自分が入れるしかけで子供が遊んでいるようなにぎやかな雰囲気である。そこを通って地下にあるメインのギャラリー2に行くと、450平方メートルほどの広い空間にたくさんの展示が並んでいる。目の前にある四角いアクリルを覗き込むと、中にお寿司がネタ、のり、わさびと米粒の一つ一つまでばらばらになって並んでいる。お寿司を分解するとこれだけの要素に分かれるという「お寿司の解散」のタイトルになるほどと頷く。

隣を見ると、今度は1cmほどから50cmほどまでの大きさに作ったお寿司がずらりと並んでいる。ちょうどよくないものと見比べるとちょうどいいものが分かります、という「ちょうどいい」の展示には思わずニヤリとさせられる。しかも寿司という食材のためか模型の出来が素晴らしいためか、自分ならどの大きさがいいかとつい考えてしまう。こういった視点が言葉だけでなく、一目瞭然に表現されていることが楽しい。

メインのギャラリー2には一見いろいろな展示が並んでいるが、「デザインの解散」や「ちょうどいい大きさ」などのデザインの視点を縦軸に、「お寿司」「本」「器」「お金」「学校」などの観察対象を横軸にして、空間自体がデザインの視点×観察対象というマトリクスにきれいに整理されている。ディレクターの佐藤卓氏の整頓が得意な性格が表れているようである。そのマトリクスの要素はどれも充実しているのだが、中でも一番は近くの小学校で教室にあるものを全部出してもらって写真に撮った「学校の解散」だろう。教室にある黒板や机はもちろん、一人一人のバックや習字の作品までが小さい写真になって並んでいる。何回も小学校に行って撮影したそうだが、これだけたくさんのものが教室に詰まっていたのかと見入ってしまう。

NHKの番組「デザインあ」では、ブロッコリーからトランプの絵柄、果てはピクニックに持って来た道具類まで、いろいろなものが要素に分かれて行く「解散!」をストップモーション・アニメーションで撮っている。1分の映像を作るのにも数日かかるような大変手間を要する手法だが、ものの構造に興味を持つ、論理的に物事を捉えるという狙いは成功していて、実際にこのコーナーは特に人気だそうだ。今回の展示のギャラリー1では、部屋の四面全体を使ったプロジェクションで映像に囲まれる体験をする。そこでも中央のテーブルにいろいろな材料が積まれていて、映像に対応するモノにスポットライトが当たる。やはりデザインの視点を映像で、観察対象をモノで示しているのである。番組も展示も作るのがどれだけ大変かを思うと恐ろしいほどだが、デザインの視点をうまく伝えて観察対象へ興味を向けるのに成功している成果は労力を補ってあまりあるだろう。

木村俊介氏がインタビューする「仕事の話」の中で、佐藤卓氏は自ら手がけた明治おいしい牛乳のパッケージデザインについて「新しさはひとつもありません。ぼくがそこで重視したのは普通の牛乳にすることですから」と答えている。要素を分解して単純にすることで、余計な要素を加えず「普通の中の普通」を設計することに力を注いだとも語っている。(株)明治によれば、この牛乳が発売された2002年以来、10年連続で牛乳売り上げ第一位を保っているそうである。中身の牛乳がおいしいことももちろんだが、青と白の清潔なパッケージや縦書きの文字の実直さが商品を見事に語っており、パッケージを見るとまた同じ味を期待する正のループが成り立っているのだろう。パッケージデザインでも「デザインあ」展でも、複雑なことを単純な要素に分解する視点は変わらないようである。

番組が2012年にグッドデザイン大賞を受賞した際、プロデューサーの大谷聡氏は「デザインあ」はいろいろな角度から物事や出来事を観察することで、さらなる美しさを作り出すことを狙っている」と述べている。番組や展示の面白さをきっかけに、モノを観察することへの興味を改めて持ちたいと思う。

木村俊介「仕事の話」、文藝春秋、(2011)


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「ちょうどいい」の展示。小さすぎから大きすぎまで、いろいろな大きさのお寿司が並んでいる。21_21 DESIGN SIGHT企画展「デザインあ」より(2013年6月2日まで)。