デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2013.06.04イマジネーションの拡張

The Centrifuge Brain Project(遠心脳プロジェクト)は、遠心力が脳を刺激するという考えに取り憑かれたエンジニアが、生涯をかけて究極の遊園地の乗り物を開発するという映像ドキュメンタリーである。2011年制作の短編作品で、ドイツをはじめ各地の映画祭で受賞している。コンピュータの画面を背景にエンジニアが語る「このマシンに乗ると世間でのコミュニケーションも責任も何もかもがストップして、完全に自由になれる」という言葉が印象的だ。

6分30秒ほどの映像は、プロジェクトのウェブサイト(www.icr-science.org)で公開されている。時代を感じさせる古い映像のインサートも美しく、見た事もない遊園地の乗り物が次々と出てきて目が離せない。だがしばらく見ていると、出てくる乗り物が凄すぎて現実にはありえないことに気づく。それもそのはず、このドキュメンタリーは完全な作り話で、乗り物はみな想像の産物だからである。乗り物はCGだが、マッチムーブという方法でカメラの動きと一致するように遊園地の実写映像に組み込まれているので区別がつかない。その上、研究所で図面を見ながらエンジニアにインタビューするというドキュメンタリー仕立ても、いかにも事実という感じを出している。この映像は本当らしく見せるという点で、技術的にも構成上も成功しているのである。

しかし本当に素晴らしいのは、遊園地の乗り物を作るというプロジェクト自体を構想してCGで作り出した想像力だろう。制作者でデジタルアーティストのティル・ノヴァク(Till Nowak)は「人間のすごいところは、自然にどんな現実にも合わせてしまうことです。遊園地に行ってどれだけ大きな乗り物に驚いても、次にはそれが現実だと納得してしまいます。それで私は、現実の10倍も大きくしたものを視覚的に作って、最初に感じた驚きや混乱を改めて体験させようとしているのです」とインタビューに答えている。言葉では難しくないが、はるかかなたに上って行く一周14時間の観覧車や、打ち上げまでどの軌道に飛び込むか分からないロケット型のジェットコースターを本物らしく見えるように作るには、たくましい想像力が必要である。

そしてもう一つ見逃せないのは、この作品はドキュメンタリーの形を借りることで批判的な視点を得ていることである。遊園地の乗り物をここまで誇張することで、人間のすることをつきつめると狂気じみたところに至るという批判的な意味が出てくるのである。ノヴァクは上記のインタビューで「自分のテーマは文明の風刺で、人間が行こうとしているところ、けれどもどうしても行き着けないところを、視覚的に突き詰めることです」と言っている。現実にあるかのようなドキュメンタリーとして描くことで見る側にもイマジネーションが働き、いかにもこんなエンジニアがいそうだと笑えると同時に、そんな乗り物を望むかもしれない人間の際限のなさにも思い至って怖くなるのである。

現実にありそうだが本当ではないドキュメンタリーは、にせの(mock)という意味でモキュメンタリーと呼ばれる。イリノイ大学のスペンサー・シャフナーによると、モキュメンタリーはフィルム映画の時代からあり、テレビの時代を経て現在ではウェブに至っている。対象への批判や風刺という態度はフィルムの時代から引き継がれているが、それに加えてウェブ時代のモキュメンタリーは単に観るだけでなく、ネットを通じて本当かどうかを確かめたり、作り手側のスタンスを読みとることを楽しむようなユーザの視点が加わったという。彼は南アフリカのちょっと過激なヒップホップバンドであるダイ・アントワード(Die Antwoord)が、映像、写真、ツイッター、Facebookなどをうまく使って、南アフリカのカウンターカルチャーであるzefのイメージを一貫して確保しているという。彼らのミュージックビデオFatty Boom Boomでは、レディ・ガガらしき人がアフリカに見物に来てトラブルに巻き込まれ、生肉ドレスを着ていたために最後にはライオンに食べられるというパロディをやって、ガガから嫌みのツイートをされるという本当の事件まで起こした。ただその問題のビデオもメーキングまで見ると、撮影場所にしたヨハネスブルクのスラムでは意外と好意的に見られていて、遠い所からツイートしてくるガガの方が妙に人工的に見えたりする。これも見る人が自分で探して自分なりの真実を作るというウェブ時代のモキュメンタリーなのであろう。

適度なユーモアやパロディがあるモキュメンタリーには、何度も観たり他の情報も調べてみたくなる要素がある。The Centrifuge Brain Projectのような想像力を拡張してくれるプロジェクトがこれからも出てくることに期待したい。

Spencer Schaffner, Epilogue: Mockumentaries Meet New Media, in Cynthia Miller (ed), Too Bold for the Box Office: The Mockumentary from Big Screen to Small, Scarecrow Press, pp.201-212 (2012)

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The Centrifuge Brain Project (http://www.icr-science.org)