“本能”から人間を読み解く - 佐藤武史

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2012.07.05東京スカイツリー紋様の江戸切子(きりこ)

浅草の界隈を夜に歩いていると、ライトアップされた東京スカイツリーがビルの隙間に見え隠れします。この世界一の鉄塔(634m)は、東京の下町で昼も夜も大きな存在感をアピールしているかのよう。

そんなスカイツリー本体の大きさとは対照的に、密やかに注目を集めている東京スカイツリー関連グッズがあります。それは、東京スカイツリー紋様の江戸切子。スカイツリーの大きな外観を模したものではなく、スカイツリーの紋様を模したもの。同じく、スカイツリー紋様の手ぬぐいなども販売されています。スカイツリーの支柱の規則的なパターンが模様となって、切子のコップや手ぬぐいが作られている。形でなく、紋様。

しかし、歴史を振り返ると、人類は紋様を愛する生き物であることが分かります。ウィリアム・モリスの壁紙には唐草紋様が取り入れられているし、縄文土器は縄によって作られた紋様が特徴の土器。現代の男性のワイシャツなどを見ても、細かな柄(≒紋様)がデザインされている。周りを少し見渡すだけで、あらゆるところに紋様が存在することが分かります。しかし、僕たちはなぜ紋様を愛するのでしょうか。そのクエスチョンが今回のテーマとなります。身の回りに紋様があふれていることを、生物的な必然性として説明できるのか。

紋様は、「規則性のあるデザイン」とも言い換えることができます。そこには日本の障子の正方形の升目や、ガラス張りのビルの窓の形状なども含まれます。上述の壁紙、土器の紋様、ワイシャツの柄にも当然、規則性があります。それらを考えると、今回のクエスチョンは、「人間はなぜ規則性のあるものに快を感じるのか」というクエスチョンに変換することが可能です。

さて、知覚心理学の領域で有名なお話(法則)があります。それは、僕たちは"物理的に近接しているものを同じグループのものとみなしやすい"という法則(近接の法則)。下図では9匹のヒツジが描かれていますが、パッと見た際、恐らく多くの方が「9匹のヒツジ」とは見なさず、「2グループのヒツジ」と見なすでしょう。近くに位置づけられていると同じグループだと見なす。でもこれは、よくよく考えると不思議なことです。バラバラだと見なしてもいいのに、バラバラとは見なさない。僕たちの脳は何か"意図的"に対象を認識しようとしているかのようです。

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上記の事実を説明するお話として、広く認められている理屈があります。そのキーワードは"脳の省力化"。どういうことかと言うと、「9匹のバラバラのヒツジ」をそれぞれ把握して覚えるよりも、「2グループのヒツジ」として把握し、覚えておくほうがラクですよね。僕たちの目や耳からは常に凄まじい量の情報が入ってくる。それらを全く独立して認識するよりも、一連のグループとして認識したほうが脳で取り扱う情報量も少なくなる、という訳です。それゆえ、僕たちの脳はできるだけグループ化して物事を認識しようとする。

そして、規則性のある対象を知覚する中に、うっすらとした快感が準備されている。音楽でリズムを感じるときに、快感を感じます。部屋の荷物がバラバラの状態よりも、規則的に並べられている(片付けられた状態)のほうが気持ちがよいですよね。規則性のあるものに囲まれたとき、脳は喜ぶようにできているのです。

実はさらに、その快感をもう一歩高める法則があります。それは、"規則性の中にちょっとしたアクセントをつけておく"というもの。例えば、下図には黒いヒツジが一匹含まれますが、黒いヒツジのお陰でちょっと面白い絵柄に変わる。佐藤卓がデザインしたクールミントガムのパッケージには5匹のペンギンが描かれていますが、そのうち1匹は他の4匹と少し違うしぐさをしていて、楽しいデザインになっています。音楽を聴いていても、ドラムが全く同じ状態で続くことはない。時々アクセントが入ったり、ブレイクしたりする。それらも近いお話。脳はラクをしたいのだけれども、同時に"飽きたくない"のですね。

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自然の中には、この「規則性+ちょっとしたアクセント」の法則がたくさん隠されています。砂浜に打ちつける波も、同じような形でいながら全く同じ形状のものはない。燃え上がる炎も、同じような形でいながら全く同じ形状にはならない。砂浜に打ちつける波や燃え上がる炎ってずっと見ていても飽きませんが、そこにはこの「規則性+ちょっとしたアクセント」の法則が隠されていたのですね。植物のツタも螺旋を描きながら何かに巻きついていきますが、その螺旋は当然、完全な螺旋ではない。

最後になりますが、東京スカイツリー紋様にも、この「規則性+ちょっとしたアクセント」の法則が実はあてはまるのです。スカイツリー紋様の基本単位は、四角い升に斜め線が入ったもの。ただ、斜め線の方向がすべて同じではなく、途中で変化している。規則的だけれども、少しその規則を乱す要素が入っている。江戸切子職人の方がこの紋様に魅せられたのも、本能論の研究家として何か分かるような気がします。

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今回は、そんなお話をさせていただきました。


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