“本能”から人間を読み解く - 佐藤武史

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2012.10.30喜びのライブラリ

先日、「心に残るCM」をネットで検索することがありました。検索結果の一つが、「ザ・サントリーオールド」。ちょっと前のCMで恐縮ですが、お父さん(國村隼さん)と娘(伊藤歩さん)の絆を描いたシリーズ。たとえば「父の上京」編は、娘を案ずる父が娘の顔を見に行くストーリー。娘は「順調だよ」と大人の嘘をつき、父のほうも突然の出張自体が大人の嘘。お互いに嘘だと知りつつも、再開の喜びを静かに味わいあう。締めくくりが、「人生、おいしくなってきた。ザ・サントリーオールド」のコピー。心に響く物語。

心に響く物語って何だろう?

映画、または小説といったいわゆる"物語"はこの世に多く溢れていますが、それらが心に響くポイントはいくつかに整理できる感があります。言い換えると、物語を大きく振り返ったとき、モチーフのレベルでは結構、共通するものが多い。上記のような「家族の絆」。ロミオとジュリエットのような「禁断の恋」。行ったことのない「未開の地への探検」。猛獣に「追いかけられる恐怖」。「ヒーロー」は最初は悪者に苦しめられるものの、パワーアップして最後には強敵に打ち勝つ。もちろん、それぞれの物語の細部は異なりますが、大きなモチーフのレベルでは共通項が多い。そして、僕たちは、そのモチーフに沿って心を響かせる。

共通項が存在する理由は、本能論的には以下のようになります。例えば「ヒーロー」のモチーフには、ヒーローが困難を乗り越えて悪に打ち勝つという物語の流れがあります。そしてここには、困難という"シーン"と、そこで打ち勝つという"本能的な喜び"が隠されています。同じように考えると、「未開の地への探検」のモチーフには、行ったことのない場所という"シーン"と、そこで好奇心を満たすという"本能的な喜び"が隠されています。上記の例では、父が娘の顔を見れないという"状況(=シーン)"と、再開を喜ぶという"本能的な喜び"。これを踏まえ、モチーフとは、とても大雑把に言うと「シーン」と「本能的な喜び(快感)」の典型的な組み合わせパターンだと言い換えることが可能です。本能が人類に普遍的な存在であるために、上記の共通項が存在するという理屈。

今回は、そのような物語のモチーフに関する話題を皮切りに、本能が喜ぶ典型的なパターン(=喜びのライブラリ)を取り扱っている学問をいくつかご紹介したいと思います。

ここで、モチーフという言葉の定義を少し確認したいと思います。以下、ウィキペディアによるモチーフの説明。『口承伝承、小説、演劇、映画、漫画などの物語には共通した事物、類似の役割を果たす人物、似たような出来事が多く認められる。それは例えば「主人公だけが使える剣(武器)」、「隠された宝物」、「英雄」、「魔法使い」、「隠遁者」、「誘惑する女」、「三角関係」、「心中」、「自己犠牲」などであり、それらを総称してモチーフと呼ぶ。』繰り返しになりますが、「隠された宝物」というモチーフには、宝物が隠されているという"シーン"と、それを見つけ出すという"本能的な喜び"が内包されています。

そして、このモチーフに対し、モチーフインデックスという言葉があります。これは、数多くの物語のモチーフを分類・体系化したものです。例えば、民俗学者の関敬吾らが編纂した『日本昔話大成(1979年)』では、35,000ほどの口承の民話が700ほどのモチーフに分類・体系化されているそうです(ヨーロッパでは、同様の活動が1900年あたりから活発化しています)。文学・民俗学の領域では、物語のモチーフに関して詳細なライブラリ化がなされているようですね。

続いて、文学・民俗学を離れ、喜びのライブラリについてもう少し広く見てみたいと思います。

マーケティングの側面でも本能が喜ぶ典型的なパターンをライブラリ化する試みがいくつかあります。一つは、ディヒターらが中心となったモチベーションリサーチ(1950年代)。消費者の動機を探る研究です。この研究から、消費者の動機の共通要素がライブラリ化されました。そこには、たとえば「力強さ」「安全性」「エロティシズム」などといったものが含まれています。セコムというサービスが成立するのは、消費者が「安全性」というモチベーションを持ち得ているから。そのような感じです。

また、ブランドに関しては、マーガレット・マークらの著した「The Hero and the outlaw」に、12のアーキタイプ(物語の元型)が紹介されています。力強いブランドには、人が共感しやすいアーキタイプ(物語の元型)が内包されている、と。ナイキはHero(ヒーロー)の元型を、ハーレーはOutlaw(アウトロー)の元型を背負っている、それゆえに、それらブランドは成功できている、などと紹介されています。アーキタイプという名のライブラリです。

もっと卑近な例では、「営業トーク集」「キャッチコピー集」なども、(単純に快感を刺激するものばかりではありませんが)広い意味では喜びのライブラリの一つの形態だと言ってもよいでしょう。

もっともっと柔軟に考えると、『京都の人気のラーメン店 50』『パリで買っておきたいお土産 ベスト10』『珠玉のジャズピアノ集(CD)』なども喜びのライブラリなのでしょう。そうすると、『ルーブル美術館』も喜びのライブラリになりますね。人気のディズニー映画などにも、本能的な喜びがちりばめられていると言うことが可能でしょう。

セラピー寄りの考え方の中にも、ライブラリ化しているものがあります。デビット・メレルが提唱したソーシャルスタイルという性格類型の考えでは、人には4つの性格のタイプがあって、それぞれ喜ぶポイントが異なるとしています。例えば、人との関係を大切にするAmiableタイプの人は愛や友情の喜びに強く反応する、分析的なAnalyticalタイプの人にはロジカルな美しさが喜ばれる、など。これも広い意味で、喜びのライブラリだと言うことが出来るでしょう。


本日は、物語のモチーフに関する話題を皮切りに、『本能が喜ぶ典型的なパターン(=喜びのライブラリ)を取り扱っている学問』についていくつかお話をさせていただきました。人がどのような時に喜びを感じるのか/人に何を提示すれば喜びを感じてもらえるのか、そのような疑問を解決したいとき、上述したような、すでに研究のなされている"喜びのライブラリ"を参考にしてみることも一つの近道かもしれません。そして、あなたらしい、「心に響く物語」を奏でていただければと思います。

その際、「その喜びがどの本能に属しているのか」を意識しておくと、ご自身の頭の中で、より体系的にライブラリ化ができるようになるのではないか、と考えています(本能的な快感については、エクスペリエンスマガジンのバックナンバーをご確認ください)。


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