2008.03.03政治家的カスタマー・サービス?
今やアメリカでは、企業への問い合わせの電話に「生の人間」 が出てくることはほとんどなくなった。
たとえば、新しい電気製品を買ったとして、どうもうまく動かない。 誰かメーカーの人と話したい。そう思って電話を入れても、自動アナウンスが流れるだけ。アナウンスに従っていくつもボタンを押し、 やっとカスタマー・サービスに辿り着いても、「係員が直接お応えするまでの待ち時間は15分です」などと言われる。イライラして電話を切ってしまうのが普通だ。
もし15分待ったとしても、それが報われることはほとんどない。 電話口に出てきた係員がマニュアル通りの受け応えしかできず、ラチがあかないのだ。 挙げ句の果てにインターネットにアクセスして、他のユーザーが上げているコメントや苦情、 それに対する親切な誰かの解決策などを目を皿にして探し、どうにか問題解決ということもある。
このサービスの悪さを、 たいていのアメリカ人は苦々しい気分で納得しているものだ。企業が経費を節約し、カスタマー・サービス人員をカットしているからこそ、 製品の値段も安い。その恩恵にあずかっているのだから仕方がないか、というところなのだ。 日本流のていねいさやサービス精神のない国が、トコトンまで資本主義のビジネス優先主義を極めた姿がこれである。
ところが、そんな中で驚くほど電話が通じる業界がひとつだけある。 政治家の世界だ。仕事柄、議員のオフィスに電話を入れることが時々あるのだが、どのオフィスでもちゃんと人が出る。そして、 「その用件でしたら、○○部の誰々が担当ですから、そこにつなぎます」とか、「誰々から電話を折り返し差し上げます」とか、 驚くほどのしっかりした対応ぶりなのである。
大統領選に出馬する以前のヒラリー・ クリントン上院議員のオフィスに連絡を取ったこともあったが、もちろん生の人間が対応し、 さらにあるリクエストに対してちゃんと書面の返事が来た。アメリカで最良のカスタマー・サービスのケース・スタディーをするならば、 政界がもっとも適切かもしれないと思うほどだ。
政治家の事務所が日々どのようなカスタマー・サービス、 つまり地元の住民に対してどんな対応をしているのかは、その政治家生命に大きな影響を及ぼす。今繰り広げられている大統領予備選でも、 誰がどこのレストランでちゃんとチップを置かなかったとか、地元の移民コミュニティーでどんな対応をしたとか、 そういったミクロの話題が全国放送のテレビだけでなく、インターネットに乗ってあっと言う間に広がってしまう。 企業以上に気が抜けないのが政治家であるという感覚は、日本とは逆かもしれない。政治家たちは、絵に描いたような「公僕」 ぶりを毎日実演しているのだ。
ところで、生の人間が出てこないアメリカのカスタマー・サービスだが、 インターネットの対応で賞讃を浴びている企業はオンライン書店のアマゾンである。昨年も、アマゾンの限定企画ラップトップ・ コンピュータの超バーゲンのくじに外れた男性が、CEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾス宛に、「これでやっとラップトップを手に入れて、 念願の小説を書こうとしていたのに」と苦情を送った。カスタマー・サービス部トップからの返事が冴えていた。
「ベゾスから言われてお返事しています。当選されなかったのは残念です。 ところで、ノーマン・メイラーのベストセラー小説はすべて手書きだったのはご存知ですか。ペンは剣よりも強し、 という言葉もありますね。来年の特別企画までどうぞお待ち下さい。そして、その間にあなたが小説を書かれるのを、心待ちにしています」 。
カスタマー・ サービスのマニュアルから離れた対応にはかなりのリスクが伴うものだが、アマゾンの一辺倒でない対応への評価は高い。
カスタマー・サービスでどうキャラクターを出すのか。 ミクロがマクロになるインターネット的現代社会では、これは大きな課題でもある。




