米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2011.08.03ポップアップという、新しい店のあり方

前回は、「売り方」の新しい潮流について書いたが、今回は「店」のあり方についての新しい潮流の話題を。最近、ちまたでよく耳にすることばが「ポップアップ」である。ポップアップとは、今まで何もなかったところに突然出現する、という意味だ。これが、最近レストランや美術館、はたまた教会と関連して使われている。

まずは、レストランから。ポップアップ・レストランとは、ちゃんとした店を持たないシェフが、どこかの場所を借りて食事を出すようなことだ。たとえば、ギャラリーを借りて、その日一日だけのレストランを開くといったようなことである。
これが最近よく話題になっているのだ。サンフランシスコで今もっとも人気のレストランのひとつも、このタイプである。この若いシェフが得意とするのは、アジアン・フュージョン系の料理。中華風、エスニック風がまざって、今までにないタイプの料理を創作してしまう。

彼は自分の店がない。開店しているのは、サンフランシスコ市内の中華料理店の中である。この中華料理店は、取り立てて言うほどの特徴もない場所。おそらく客も少ないので、彼に貸すことにしたのか、それとも知り合いで、彼にチャンスを与えようとしたのか、そこのところはわからないが、今ではもうその中華料理店を喰ってしまいそうな勢いで人気を増している。当初は毎週数日間だけオープンしていたのに、今は定休日1日を除いてぶっ続けで開店中だ。

自分の店を持っていても、ポップアップ・レストランを開くことがある。たとえば、近隣の町で人気のレストランを経営しているシェフが、サンフランシスコへやってきて、どこかのレストランで料理を出すといったことだ。きっとシェフ同士が懇意なのだろう。「当店は、来週○曜日はどこどこのシェフのポップアップになります」といったようなチラシが、その店に置かれていたりする。

予約の取れないレストランとして知られるナパのフレンチ・ローンドリーのシェフ、トーマス・ケラーも、近くロンドンのハロッズで10日間のポップアップ・レストランを開くらしい。ランチで205ポンドとは、ちょっと目を剥くような値段だが、ご関心のある向きは早く予約を取られたし。

ポップアップがこんなに人気になっている背景には、もっと実験的な消費の方法を試したいとか、もっとカジュアルにいろいろなものを楽しみたいと願う消費者の新しい感覚があるのだと思う。きっちりと考え抜かれたインテリアの店で、いつもの料理を食べるという安心感もいいだろうが、予期せぬミスマッチとか、事件的に現れるおもしろさとか、期間限定のありがたさとか、そういった新しい価値観をわれわれは欲しているのだろう。飽き症になっていることも、それを後押ししているのは確かだ。

ポップアップは、美術館でも試されている。ニューヨークの有名なグッゲンハイム美術館は、仮設建築で世界中を旅する展覧会をスタートさせた。BMWがスポンサーする「ラボ(実験室)」という位置づけで、「現代の都市生活を考える」というテーマだ。イベントなども開きながら、6年間で9都市を巡るという。教会でポップアップが起こっているのは、ニューヨーク。同性愛結婚が合法化されたばかりで、彼らの結婚式をセントラルパーク内で開くためという。

いずれにしても、これまでの「定式」を外れたところで何ができるのか。経済も世界観も変化を遂げた今、人々はそうしたアイデアを求めている