米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2011.10.05アマゾン流のショッピング・クラブの方程式

アメリカには、ショッピング・クラブというのが古くからある。年会費を払ってメンバーになれば、いろいろな商品が格安で買えるというしくみだ。たとえば、昔からブッククラブというのがあるが、これは例えば1年間契約をすれば、毎月何10冊という書籍を送ってもらえるようなもの。その書籍は、何100冊とある中から選択できるようになっていたりする。この場合、会費の元をとるのは手元に送られてくる書籍の多さである。あるいは、日本にも進出している卸売りコストコ。アメリカのコストコはずいぶんの人気で、知り合いはみんなここの会員と言っても過言ではない。商品カテゴリーの中での選択肢は限られるが(たとえば、洗濯用洗剤は2種類しかないなど)、商品の幅は広く、アメリカでは料理用スパイスから、タイヤ、家具、はては自動車まで売っている。品選びにうるさい向きには合わないかもしれないが、日用品として十分な質のものがすべて格安価格でそろって会費をすっかり相殺する。これが、この会員制の売りだろう。

さて、同じようなショッピング・クラブをインターネット時代に行っているのが、アマゾンである。日本でも書籍や日用品などが豊富にそろっているが、アメリカではもっと商品種類が多く、化粧品から水道の蛇口、ボートのエンジンなど何でも揃う。そのアマゾンが行っているプライム会員制が、ここのところ注目を集めている。プライム会員は、年間79ドル。プライム会員制自体は日本のアマゾンにもあるので、利用されている方もおられるだろう。会員になれば、書籍を始めかなりの商品の送料が無料になるのが特典だ。アマゾンに出ている商品はだいたいが定価より安いが、それで送料がついてしまうと、その安さが打ち消されてしまう。ところが、この会員になれば、送料を気にせず、値引きで商品が手に入る。買い物のためにわざわざ車を出さなくてはならないという面倒さがあるアメリカでは、いながらにして商品が安く手に入るのはありがたい。ものの10回も買い物をすれば、79ドルの会費の元はちゃんととれる。そんなわけで、このプライム会員を利用している人はけっこういる。

このプライム会員制が注目されているのは、アマゾンが先頃発表した新しいタブレット、キンドル・ファイアーによってである。キンドル・ファイアーは、これまでのモノクロの電子書籍リーダーのキンドルと違って、アンドロイドOSを搭載したタブレット・コンピュータ。どうも、アマゾンはこのキンドル・ファイアーとプライム会員の組み合わせで、ユーザーをうまく囲い込む手段を整えたかのように見えるのだ。まず、このキンドル・ファイアーを発表するちょっと前からスタートさせていたプライム会員用の映画ストリーミング無料サービスがある。ピカピカの新作ではないが、数年前のヒット映画作品など9000本が、ただで見放題である。今はコンピュータ上で、あるいはテレビ画面にセットトップ・ボックスを接続するみたいなややこしい方法で観たりしているが、キンドル・ファイアーを手にすればどんなに簡単になることか。クリックひとつで、すぐに観たい映画が観られるのだ。プライム会員費を払ってもあまりあるサービスだ。喜んで払い続ける人々は多いだろう。

また、キンドル・ファイアーにつけられた199ドルという値段も絶妙である。タブレット・コンピュータはこれまで値段がなかなか下がらなかった。アップルのiPadもサムスンのギャラクシー・タブも、500ドル近い。それが、199ドルである。そんなに安いのならば、これを買ってプライム会費も払おうかという気にもなるだろう。もちろん、アマゾンは先回りをして、このキンドル・ファイアーを買えば、1ヶ月無料でプライム会員の特典がついてくるようにしている。それでユーザーにたっぷり特典を享受してもらい、1ヶ月が過ぎた後に入会してくれることを願ってである。

このキンドル・ファイアーは、ただの電子書籍リーダーではなく、コンピュータなので、そこにアマゾン・ショップのアプリも統合される。アマゾンの有名なワンクリック方式で、タブレットからお手軽に買い物もできるというわけだ。そして、プライム会員ならば、送料が無料。アマゾンは、ショッピング・クラブのあり方をどんどん先へ進めているという感じがする。

正直なところ、アメリカのインターネットの客は非常に甘やかされている。安くて当たり前、便宜を図ってくれて当たり前、という意識である。商売を営む方にとってはかなりキツイ時代だが、そのキツクなるところをテクノロジー、そして既存の仕組みを組み替えて工夫することでうまくやってくれてこそ、客はその店に組みしようと思う。
その意味では、アマゾンが次々に打ち出すショッピング・クラブの新しいかたちは、消費者を飽きさせないのである。