米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2012.06.14独自の信頼を構築する。『コンシューマー・レポート』誌から学べること

アメリカで非常によく知られた雑誌に『コンシューマー・レポート』がある。これは、ひとことで説明するとすれば、消費者のための商品情報誌だ。自動車、家電、キッチン製品、携帯電話といった商品から、保険、ホテル、エステなどのサービスまで、同誌が独自のテストや調査を行い、その結果を詳しい評価基準にそって得点として出す。その評価が、アメリカでは非常にありがたがられているのである。

『コンシューマー・レポート』誌は、弱い立場にいる消費者を護るために1930年代に創設されたコンシューマー・ユニオン(消費者組合)という名前のNPOが主体となっている。コンシューマー・ユニオンは、当時、企業の過剰な広告に踊らされて、不良品や粗悪商品を買わされていた消費者を教育し、食品やストッキングなどの商品をテストして評価するといったことを始めたのだ。

日本にも『暮らしの手帖』という雑誌が、かつて商品テストをしてその本当の質を消費者に知らしめるという志の高い企画を続けていたが、『コンシューマー・レポート』のテストはかなり専門的なものである。たとえば、自動車の場合、テストされるのは50項目以上。加速やブレーキ、燃費、騒音はもちろんのこと、緊急時のハンドリング操作、オフロードでの運転、乗り心地、荷物のスペースなども含まれる。また、専門のテスト・トラックでの走行状態、数日間の家族旅行での使い勝手なども評価の対象だ。新車状態でのテストに加えて、経年の故障具合なども継続してレポートされる。またオーブンならば、過熱具合とか、実際にクッキーを焼いた際のムラなどもテストされ、電動ドライバーならば、100回ほどもネジを回してみて、その耐久性を調べたりする。ともかく、テストの方法が科学的で徹底しているのである。

さて、この『コンシューマー・レポート』は、消費者が買い物をする際によく参考にされている。冷蔵庫を買いたいがどこのメーカーがいいか。掃除機はどの製品がお買い得か。新車が発売されるシーズンには、自動車特集を組む『コンシューマー・レポート』は飛ぶように売れている。それだけ消費者からの信頼度が高いということだ。

昨今は、インターネットで一般ユーザーが投稿するタイプのサイトが人気を得ている。レストランやホテル評価もそうだし、アメリカでは大工や歯医者、エステなど地元のビジネスをユーザーが評価するサイトがたくさんある。だがそんな中でも『コンシューマー・レポート』が確固とした支持を得続けていることには注目すべきだろう。

そうした支持の背景にあるのは、同誌の評価が「感情」や一時の評価に頼らず、科学的で客観的なことだろう。同誌は客観性を保持するために、企業からの広告は一切受けず、またテストする商品も自前で購入する。購入する際も、同誌が買っていることがわからないように、一般の協力者の手を借りて購入するという念の入れようである。同誌の出版は、さまざまな財団や一般市民からの寄付金で行われている。

インターネットに押されて、アメリカでも出版界は不況だが、この『コンシューマー・レポート』の業績は順調だ。デジタルで情報を切り売りするのが功を奏しているからである。たとえば、ベビー製品だけの商品テスト結果や自動車のテスト結果などを、雑誌とは切り離して販売しているのである。出産を控えている、あるいは、大きな買い物をしようと計画している消費者が、何1000ドルを費やす前に、ほんの数ドルで『コンシューマー・レポート』の情報を手に入れて、優れたものを買おうとするのだ。

本当の質とか価値とは何か。ただで手に入るインターネットの集合知もいいが、信頼を得るための独自の作業を続ける『コンシューマー・レポート』の姿勢には、いろいろ学べることがあるはずだ。

『コンシューマー・レポート』のURL:
http://www.consumerreports.org/