注目のクリエーターズボイス

m.c.t.ホーム > エクスペリエンスマガジン > 注目のクリエーターズボイス > 人々を魅了するブランドエクスペリエンスとは

2008.10.02人々を魅了するブランドエクスペリエンスとは

 Tonge 1 low res

 David Tonge(デヴィッド・トング氏)

 The Division

 インダストリアルデザイナー

 

アメリカ、 イギリス、日本で、グローバルにデザインコンサルティング

を展開しているデザイナー、デヴィッド・ トング氏。

豊かさによる市場の飽和、 少子高齢化による人口減少など、

社会的な背景から日本の市場縮小が進行する中、

日本企業が海外市場に進出し、 成功するためにはどのように活動

を展開していけばよいのか、 トング氏にお話をうかがいました。

 

*******************************************************

 

デザインコンサルティングをグローバルに展開

― まず初めに、現在はどのようなクライアントが多いのか教えていただけますか。

イギリス、アメリカ、日本の企業との仕事が多いですが、日本に来るようになってから長いので、現在は70~80%が日本のクライアントです。1996年から仕事で日本を訪れるようになり、 そのときはIDEO社のサンフランシスコ支局に在籍していました。東京にも小さなオフィスを構えていて、 日本との間をよく行き来していましたので、それが日本に興味を持ち始めた原点ですね。2000年に独立し、 日本で仕事をするようになったので、それからは一ヶ月に1回くらいのペースで日本を訪れています。

 

― では、 具体的にはどのような内容のお仕事が多いのでしょうか。これまでに手がけた中からいくつか事例を教えていただけますか。

日本では企業のデザイン部門からのプロダクトデザインの依頼が多いですね。デザインプロジェクトにおける教育やプランニング、 実際のデザインを含むコンサルティングも多いです。具体的にはパナソニックや日産といった企業との仕事をしました。パナソニックの場合は、 デザインアイデンティティーの構築をサポートしました。彼らは継続的なデザインアプローチを求めていて、テレビや携帯電話、 DVDプレーヤー、カメラなどの一連のプロダクトデザインを手がけました。日産には車のインテリアをどのようにデザインし、 どのようにコントロールするかといった、デザインプロセスの考え方についてアドバイスをしました。アメリカでは、 テクノロジー関連の仕事が多く、主なクライアントにヒューレットパッカートや、Dellが挙げられます。彼らにはデザインアイデンティティープログラムを提供し、 プリンターやプロジェクター、ラップトップ、デスクトップのデザインもしました。他にも、 ナイキのアイウェアのデザインを手がけています。イギリスではレギュラーのデザインコンサルティングの仕事が多いです。 (サムソナイトの競合である)英国のCarltonという会社のためにトラベルバッグのシリーズを手がけ、 賞をいただいたこともあります。開発には3年かけ、ハードタイプの大き目のトラベルケースや、 ソフトタイプのブリーフケースなどをデザインしました。

 作品2

 

 

 

 

 

 

 

 

具体的には、さまざまな企業とのお仕事で以下のようなことをサポートしています。

         デザインプログラムの企画

         既存の商品ラインアップの審査

         わかりやすい商品ストーリーの構成

         クライアント企業のブランド属性の理解促進と伝達

         クライアント企業に対するユーザニーズの解説

         商品コンセプトの確立

         商品開発サポート

ワークショップをすることもありますが、デザインプロセスの技術を伝える方法のひとつであって、 ワークショップが最終点になることはありません。

 

 

定着しつつあるユーザ中心のデザイン

日本の企業や市場について、過去と現在で何か変化を感じていることはありますか?

文化や社会、都市、ビジネスなどに変化は見られると思います。ただ、 デザインに関しては日本にはトレンドという現象があります。たとえば、ユーザ中心のデザインが今日本でトレンドとして注目されていますよね。 8~9年前、ユーザ中心のデザインが定着する前は、日本の企業はただの“モノ” をつくっていました。技術を売りにして、もっと機能を付け加えて、もっと速く、もっと安くといったものづくりをしてきました。 でも今の状態が変化かと問われると正直わかりません。日本では多くのことがトレンドとして起こっていて、統一性がないからです。 また、欧米ではユーザ中心のデザインというプロセスはもっと早くから取り入れられ、商品開発をするときには、 人々のニーズを明らかにするために、プロダクトデザインの早い段階からリサーチやテストを行っています。 そういう意味では日本はまだ遅れています。

 

 

より重要で難しいのはリサーチ結果を

形に落とし込む次のフェーズ

日本でもリサーチの重要性に関する意識は高まってきているということですが、日本の」 デザインプロジェクトにおいて感じている困難はありますか?

今はリサーチの重要性に関する情報自体が増えているので、 そういう意味ではみんながアクセスしやすくなってきたのではないかと思います。でも、リサーチをするだけでは十分とは言えません。 その先のデザインや新しいアイデアを形にしていく部分こそが難しいと感じています。日本のデザイナーがリサーチ手法について学んだ上で、 意味を解釈し形に落とし込んでいくこと、リサーチで得た情報をどのように使うかといった次のフェーズがとても難しいのです。

designprocess2

 

 

 

 

 

 

 

 

デザインプロセスを進めるための組織改革が

日本企業の課題

では、 より理想的なデザインプロセスを取り入れるために、障害となっていることは何でしょうか?

日本の企業においてユーザ中心のデザインプロセスの展開が遅れている要因のひとつは、 企業の組織構造自体がデザインのプロセスを受け入れる体制として整っていないことにあると思います。 欧米では通常デザインプロジェクトを進める際に、デザイン部門以外のマーケティング部門やエンジニアリング部門のディレクターなど、 さまざまな部門のスタッフが同じ土俵に立って情報を共有し、方向性を決めていきます。 デザインやエクスペリエンスデザインの部門は権威のある地位にあるので、いろいろなことを決めていく権限を持っていますし、 組織体制もより統一されているので効率的です。しかし日本では異なる部門が各々で動いていて組織として統合されていないため、 部門間の情報共有が十分に行われていないと感じています。私が仕事をする場合もデザイン部門と主に仕事をすることが多いです。 もし私がリサーチを行うなら、さまざまな情報がどこからどこに伝わり、責任者は誰でといったことをまず明らかにします。 デザインをする上でのプロセスをしっかり構築しなければいけないからです。有効なデザインプロセスはたくさんありますが、 会社の構造が整っていなければ、良いアイデアがあって、よいリサーチをしてもよいデザインプロセスに沿って先に進めることができません。

 

 

他国のカルチャーを理解すること

その土地にはその土地のルールがある

ヨーロッパは多くの国が集まっており、それぞれの文化が異なるため、戦略も異なると思います。 そのような地域へ日本企業が進出するためにはどのような課題や解決策があるのか教えていただけますか。

日本の企業にとって一番必要なのは他国のカルチャーを深く理解することだと思います。 その土地のカルチャーにフィットするものをつくることです。日本は国土は小さいですが、人口が多いので、 自国でモノを売ることがそんなに大変ではないと思います。人口が少なく、国土の小さなヨーロッパの国々は、 自国の製品を輸出しなければいけないですよね。輸出するときは、競争も激しいので、他の国で売ることを考えるとその国の人々のことや、 マーケットのことをよく理解する必要があります。製品自体がユニークであることも大切ですし、チャンスもしっかりとつかむ必要があります。 日本の少数の企業がグローバルに戦っていますが、一般的には日本の市場を対象としています。だから世界に進出することがとても難しいのです。 市場が変わって、欧米でモノを売る必要がでてきたら、その市場にいる人々が何を求めているのか理解する必要があります。 今ソニーなどの日本の企業はヨーロッパでは苦境に立たされていると思います。同じアジアでも、韓国の大企業SAMSUNGやLGはとても成功していますよね。違いは企業の構造と考え方にあります。 サムソンはよいデザインプロセスを取り入れて、イノベーティブなプロダクトをつくろうと革新的に変わってきています。 日本の企業はSAMSUNGなどに対してとてもナーバスになっていると思いますよ。 競争もイノベーションを起こす要素のひとつでしょうね。

 

では、 具体的に日本の企業が抱えている問題は何でしょうか。

多くの日本企業がビジネスの機会を見つけようと海外へ渡っていますが、 彼らはただ旅行をするように外の世界を見てきただけだと思います。ちゃんとその土地の環境や、 その場で何が起きているのかを感じることをしていません。日本から現地をコントロールしようとしていることも問題です。たとえば、 日本のエレクトロニクス関連や自動車関連の企業は世界各地で製品を売っていますが、まだ技術にフォーカスしすぎているし、 技術を売っています。日本では、技術が先行しがちですが、ヨーロッパでは、妥当な価格で、役に立ち、 自分のライフスタイルやテイストに合うものをより重視します。アメリカではモノの価値と価格が妥当であることにより喜びを感じます。 そのように、人々がものを選び、購入する基準は国よっても異なります。同じアジアでも韓国のSAMSUNGなどの企業は他国のローカルのカルチャーやその土地のテイストを全て受け入れた上でデザインをしています。 彼らがつくる製品は韓国のデザインではありません。日本の企業の場合は、それは私たちのやり方じゃない、 違うというような状況がよく起こります。他国において、自国の視点で語ってしまう。その結果、つくられたものは日本のものでも、 ヨーロッパのものでもなくなってしまうのです。ヨーロッパに向けたデザイン、アメリカに向けたデザイン、 その土地にはその土地のルールがあります。

 

 

世界で受け入れられるグローバルデザイン

ブランドエクスペリエンスという次のステップ

SAMSUNGやNokiaなどは、世界で受け入れられているブランドの代表例ですが、 それはなぜだと思いますか? また、日本の企業がグローバルなデザインを実現するための課題はどこにあると思いますか。

それはブランドエクイティが確立されているからです。 プロダクトの価値は機能や仕様だけではありません。 日本の企業における問題は継続的なプロダクトのブランド構築についてあまり考えられていないことだと思います。 ブランディングはグラフィックデザインをすることだけではありません。欧米では製品(目的)の価値や人々の感覚に訴える部分を重視します。 質や素材などの要素を融合してブランドの感覚的要素を構築していきます。たとえば、アップル社やプラダ、ルイヴィトン、 フォルクスワーゲンなどのブランドは全ての製品から一貫したフィーリング=ブランドの価値観や世界観を感じることができるのです。 ソニーやパナソニックは日本の外でも成功している企業のひとつですが、やはりまだブランドエクスペリエンスよりも、 技術面や仕様で勝負しています。日本のものづくりの質は世界でもトップレベルだと思います。高い価値と質を提供してくれる。 そこは変わらずにあるべき部分です。しかし、ブランドエクスペリエンスとは、プロダクトがちゃんと機能するということ以外に、 人々を魅了するような要素を持つことです。形をデザインするだけではなく、その会社と人、その背景に流れているストーリーが重要です。

また、ブランドの核となる価値をよく理解している企業は成功します。 スターバックスはコーヒーの味だけではなくて、香りや音楽、製品を取り巻く環境において感覚に訴えるエクスペリエンスを提供してくれます。 アップル社もフォルクスワーゲンもそうですね。日本の企業はそういった本質的な部分を本当に理解できていないのだと思います。でも、 日本のファッション業界ではコムデギャルソン、イッセイミヤケなどのグローバルブランドが成長しています。 なぜなら少数のデザイナーがブランドのマネジメントやコントロールをする体制になっているからです。 そのため海外でもただの日本のブランドとして認識されるのではなく、とても素晴らしいグローバルブランドとして認知されています。 アップル社が成功しているのも、デザインを管理する立場の人が、ブランド全体のマネジメントをしているからです。 周りにはよいスタッフがいて、きちんとブランドのマネジメントができている。フラットなシステムになっているのです。

 

 

文化的、 社会的要因を乗り越える

ブランドアイデンティティーを確立する必要性や組織の構造を変えることの必要性などについて理解はできるのですが、 組織の構造を変えていくことは短期間で成し遂げられる解決策ではありません。 実際に次のフェーズに移っていくにはどのような提案をすべきでしょうか。

そうですね。たくさんの対策があると思うのですが、私には答えはわかりません。 デザインの最たる強みは、視覚化して人々に見せることができる、という点にあると思います。会社の中の勇気のある人が、よしやろう、 もっとお金をかけて新しいことに挑戦しようという風になってくれなければ難しいでしょうね。 ある友人が日本の組織でコーチングをしていたのですが、もっとエネルギッシュに、フレキシブルに考え、 階層的に考えるなということを教えてきましたが、とても難しいようです。それは、日本の会社や社会に根本的な原因があります。 本当ではないかもしれませんが、日本の学校では、成功をたたえられることより、失敗を罰せられることが多いと聞きます。 デザインにとってそれは障害となってしまいます。なぜなら新しいことを見つけようとすると、デザインは何度も失敗して当たり前です。 失敗してはつくりなおし、ブラッシュアップを何度も繰り返すことが、成功につながっていきます。でも日本の文化は失敗を恐れている。 日本人のメンタリティがとても慎重になっているのです。それは文化的な問題ですので、すぐに変わることはできないのでしょう。 とても難しいテーマです。

workshop1 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのような困難があってもなお日本を訪れるのはなぜでしょうか? どこに魅力を感じているのでしょうか。

日本が好きだからです。日本の企業は面白いものを作っていますし、 人々はデザインに興味を抱いていますし、新しいアイデアにも興味関心を持っています。そういったことから、 日本で仕事をするのはエキサイティングで面白いと感じています。また、日本にはイギリスが失ってしまった、 ものづくりの文化がまだ息づいています。そういったことが魅力だと思っています。しかしながら、デザイン文化はまだ強くは根付いていません。 よいデザイナーはいるけれど、目的にかなった、一貫したデザインの使い方を知っている企業は少ないのです。 日本の企業が行っている純粋なクラフトデザイン(ものづくり)と、 ヨーロッパの企業が行っている戦略的で一貫性のあるデザインとでは大きな違いがあります。

日本に来て長いですから、ずっとここでの仕事を続けていきたいとも思っています。 ヨーロッパで仕事をするのはもちろんもっと簡単で楽な面もあります。会社の構造も、コミュニケーションも、 予算を組むのもスムーズに進みます。それでもこれからも日本で仕事をしたいと思う気持ちがありますね。

 

 

The Divisionプロフィール】

工業デザイナーのデヴィッド・ トング氏とテキスタイルデザイナーの二コール・ホジキンソン氏が創設したデザイン会社。

英国で教育を受けた後、 ロンドンでデザイナーとして活動し、

その後米国に移転。サンフランシスコを拠点とし、 9年にわたり世界各地でデザインとビジネス実務において幅広い業績を積み重ねてきた。

2005年にロンドン事務所を開設。

主な顧客に、パナソニック、ブラザー、NEC、日産などが含まれる。

 

The Division HP:  http://www.the-division.com